2015年12月10日木曜日

『無料のコワーキングスペースにはなぜ人が集まらないのか(仮)』

こんにちは。コワーキングスペース茅場町 Co-Edo田中弘治です。

というわけでコワーキングスペース運営者限定アドベントカレンダー Advent Calendar 201510日目の記事です。(昨日はNPO法人コムラボ山田雅俊さんによる「地域にコワーキングがなければ作ってしまおう。コワーキングからはじまるコミュニティが面白い」でした)

毎年恒例のアドベントカレンダーは「コワーキング Advent Calendar 2015」でして、トップバッターの大宮のコワーキングスペース7Fオーナーの星野邦敏さんは全国飛び回っているのでとてもお忙しくトップバッターなのにまだ書けてないみたいですが、こちらも同時進行しております。
わたしも2日目の記事(コワーキングスペース茅場町 Co-Edo: コワーキングスペースの『敷居が高く』感じる人のための使い方をまとめてみました)を書きましたので、よろしければぜひどうぞ。

コワーキング Advent Calendarは、コワーキングスペースやコワーキングにまつわる投稿を、利用者の方や運営者の方がいろいろ書いて良いということでかれこれ6年目だそうです。 昨年わたしは「コワーキングスペースの世代論」という記事を書き、それに関連して、コワーキングスペース運営者が意識すると良いかもしれないCW理論についてというのも別途書いています。

どちらもコワーキングスペースやコワーキングスペースの運営について話をするときに、共通の認識を持ちやすくなるようにという意味もあって書きました。

詳しくはリンク先をご参照いただければと思いますが、世代論については、コワーキングスペースを規模や設備等で大きく3つほどに分類し、多様化しているコワーキングスペースを整理していて、CW理論については、コワーキングスペースの機能面を、ワークスペースとしての機能性(W要素)とコミュニティとしての快適さ(C要素)というふたつの視点で捉えて、その両面を意識して運営するとよいのではないかという仮説を提示しています。

それを踏まえていただきまして、ようやくまえがきへ


## なぜこの記事を書こうと思ったのか


コワーキングスペース茅場町 Co-Edoはオープンして約3年が経ちました。
(ちなみに本日12/10は株式会社ダイレクトサーチジャパンの創立記念日。Co-Edoをオープンする以前からWebのソフトウェア開発等を行いつつ今日で丸8年です。いつもご支援いただいてる方々と仕事に専念させてもらっている家族には本当に感謝しています)

Co-Edoには多くのコワーキング関係者の方々もいらっしゃいます。 コワーキングスペース運営者、これから始めようという方、コワーキングスペースについて調べているという学生、コワーキングスペースが好きでいろんなスペースを見ている方、などなど、いろんなかたとお会いしてきましたし、これからも来ていただけると嬉しいです。

わたしは(普段することのない)コワーキングについての話をすることが大好きで(コワーキングスペースについて 『今』いちばん熱く語る男というありがたいあだなもいただきつつ(笑))、どのような経緯で、もしくは、どのような考えで、コワーキングスペースを運営しているかを、包み隠さずオープンにお話することがほとんどです。

これからコワーキングスペースを始めようという方にいたっては、もしかすると競合となる場合だってあるのに、「コワーキングという文化が広がるほうが大事なのではないか」という仮説のもと、ドロップイン利用料以外の報酬を一切受け取らずに、どんなに業務が集中している時期でも、時間をさいてお話をするわけです。

というのも、コワーキングスペース運営という事業は、とても儲かりづらく、かつ、「どうやったらうまくいくかというのが定まっていない」のでシェアすることがとても大事だと思っているからです。
ありがたいことにCo-Edoは、勉強会やイベントがたくさん行われているコワーキングスペースとして、多くの主催者やコワーキング利用者の方に使っていただいていて、さらに1年前には2フロアへ拡張したということで、本当に幸運だったと思うし、それだけにみなさんへの感謝をどれほどしてもしきれません。
そのCo-Edoがどのように運営しているかという話は、汎用的な話ではないものの、ほんのすこしでもコワーキングスペース運営という世界に関わる方々の一助になれば良いかなと。
これはわたしがコワーキングの世界では第2世代であり、第1世代の方々の築いた文化があるからこそ成り立っている立場だからこそでして、その意味ではPay Forwardなんです。


さてそんななか、とてももやもやすることがあります。

それは「安価な(もしくは無料の)コワーキングスペースを作ろうとする」ことです。 地方自治体とかが多いですね。

今日時点でそういう場所がどれくらいあるかは分かりませんが、今後「そういうのはやめようよ」という話です。

実際に目にしたことがあるのですが、トップページに1番大きく「地域最安値」みたいな打ち出しをしている(決して大手ではない)後発のスペース。 ウリが価格しかないと言ってるようなものですし、実際にそれがウリになるとは思えないので「わたしは何も考えてません」と言ってるようにも聞こえます。
そんな何も考えないスペースが「変化の激しい」この時代の、その先頭を走るひとたち(=コワーカー)を集めるのはとても困難だと思います。

業界全体として価格が高いということであればそのようなやり方もありでしょう。(もちろん資本主義ですから、独占禁止法に触れなければ価格を下げること自体に問題ありません。なお海外のコワーキングスペースはドロップイン費用が3,000円とか普通だったりします)
しかし「(健全な経営するには)他業種に比べて安すぎる」傾向にあるにもかかわらず、価格競争で優位にたとうと考え、その結果、2年たらずで消えていく、これでは、本気でコワーキングの文化を広めようと頑張っているスペースが、巻き添えになってしまうだけだと思います。

わたしは「無料のコワーキングスペースは人が集まらない」と考えているので、無料のコワーキングスペースを作ろうと思っている方々に向けて、なぜそう考えているのかを書いていきたいと思います。

ふう。やっと本題。


## コワーキングスペースについて基本的なこと


たまーに、Co-Edoに、地方自治体から委託を受けたコンサルのような方がいらっしゃいます。
同情してしまうのですが、一生懸命コワーキングスペースについて調べているわけです。 本人は一度もコワーキングをしたことはないし、コワーキングしたいと思ってもいないのに。
仕事ですから仕方ないと思いますが、それでも、ほんとうに同情してしまいます。

毎回わたしは質問するのですが、それは「コワーキングスペースってどういうものとお考えですか?」という質問。

ひとによっていろんなイメージを持っていて、そのイメージを伝えてもらわないと、多様化しすぎていて何も話が伝わらなくなってしまうから質問するのですが、なかにはWikipediaの文章をそのまま読み上げる人がいるのです。

わたしは「Wikipediaの文章を読み上げるような人が関わると、人の集まらないスペースができる」のではないかと考えています。

そんなものを読んで分かった気になるくらいなら、コワーキングスペース運営者のブログ記事を読みましょう。 コワーキング Advent Calendarは2010年からやっています。
いくつかの記事はもう読めませんが、1年目の記事から読むことで、たった5年に起こっている、この激流のような流れを、充分に感じ取れると思います。
黎明期からコワーキングという文化を築き上げた方々の、わたしなんかよりもっと熱い思いを持った方々の記事がたくさんあります。



コンサルのようなかたにお伝えしたいもっとも大事なことは、コワーキングをする「場所」がないと人は集まれないが、コミュニティがないと人は集まらないということです。



CW理論で言うところのW要素(ワークスペースとしての機能性)ばかりに注目し、C要素(コミュニティとしての快適さ)については「考えたくない」から無料にしようとするのでしょうか。

箱だけ作っても「自然に集まってこない」ということについては分かっている一方で、「無料にすれば集まる」という甘い認識が見え隠れします。

多くの人が集まるからコミュニティができるのか、コミュニティがあるから多くの人が集まるのか

卵が先か鶏が先か。

圧倒的に後者です。


  • コミュニティが先で、場所が後
  • コンテンツが先で、場所が後
  • 中身が先で、箱が後


「無料のコワーキングスペースは人が集まらない」理由は「無料のスペースには、人が集まるようなコミュニティが生まれないから」といえるかもしれません。(普通はコミュニティがあるひとがスペースを作りますが、それはまた別のお話として)

これを掘り下げるために「集まってくる人」と「運営者」というふたつの視点で書き進めます。


## 無料のコワーキングスペースに集まってくる人の問題


「無料のコワーキングスペースは人が集まらない」といっても、まったく集まらないというわけではありません。 集まってくる人ももちろんいます。

ですが、無料のスペースには、質の悪いひとも集まりやすく、質の悪いひとがいる空間にひとは集まらないのです。 もっと正確にいえば「質の悪いひとがいる空間は、普通の人は敬遠してこなくなる」のです。

コワーキングスペースにおける「質の悪い人」というのは、共用スペースということが分かっていない人のことで

  • 自分さえ良ければそれで良いと考え、他の人への迷惑を考えない
  • 秘密主義で自分から何かを与えるようなことがない(もらう一方で当たり前と思っている)
  • 自分のお客さんを見つけようと必死で、同業者と仲良くできない


こんな特徴があります。

そして、これらのひとは無料だから何してもよいと考えがちな傾向にあり、運営者もその人たちをほかの利用者と同列に扱いがちです。


## 運営者の問題


ひとが集まらない理由を、外部に要因があると考えるような運営者はあまりいないと思います。

運営者が用意した箱(システム)に利用者が集うわけですから、どのような利用者が集まるかどうかは、運営者次第といえます。

西国分寺にあるクルミドコーヒーという喫茶店では、どの客席にも殻付きのクルミが置いてあり、コーヒーを飲みにくるお客さんは、無料でいくつでもクルミを割って食べることが可能です。 クルミは国産の(輸入物とくらべると3倍ものコストのかかる)高級なものです。 わたしもひとついただきましたが、口の中で広がったクルミの甘みは忘れることはできません。

さて、そんなクルミドコーヒーのクルミですが、オーナーの方は著書でこのように述べています。


それではあまりにサービスが過ぎるから、(クルミの無料提供は)一人何個までなどルールを決めた方がいいのではないか、など。 そうでないと店内でどんどん消費されるだけでなく、こっそり鞄に入れて持ち帰るような人も現れるかもしれないと。 (略) ただ、その意見は採用しなかった。 このクルミがどれくらいのペースで減っていくのかは、きっとぼくらの仕事ぶりをはかる いいバロメーター なのだ。 (略) これは、ぼくらがどれだけ「贈る」仕事をできているか、そしてそれがどれだけお客さんのところに届いているかをはかる、 一つの指標 なのだ。
(カッコ書き・太字はわたし)

コワーキングスペースを利用している方には、「とても便利な場所があって嬉しい」と思っていることもおおく、わたし自身もCo-Edoの利用者から帰り際「仕事がはかどりました。ありがとうございました」と感謝されることもしょっちゅうです。お金を頂いているにもかかわらず。

きちんと価値を提供できていれば「自分さえ良ければそれで良いと考える」たぐいの利用者には、毅然と「ここはあなたのくる場所ではない」という姿勢を表すことができるでしょう。 (言葉や態度に出す必要はありません。ビオトープガーデン理論というのがあるのですが、このへんのお話はまた別の機会に)

Coworkingという言葉には「協働」という意味があります。 「オレがオレが」というひとには、本来的には向きません。スペースが多様化している今日そういうかたの利用も増えていますが、そういうかたにこそ、コワーキングの本来の良さに気づいてもらうのが運営者としての仕事であり醍醐味だと思います。

予定より長くなってしまったので、少し端折らせていただき、どのようなスペースだとコワーキングスペースとして相応しくない利用者を増やしてしまうのかという話を。

  • 運営者にポリシーがない
  • 些細なことでもルールで縛ろうとする
  • 運営者がコミュニティを作るということに汗をかけない


こんな感じになります。

運営者にポリシーがないと「自分さえ良ければそれで良いと考える」たぐいの利用者の割合が増えてしまいますし、ルールで縛ろうとすると利用者は窮屈に感じます。

運営者(スタッフ)がコワーキングという文化に疎く、利用者がどのような方々で、どのようなことに価値を感じて利用しているかを想像できず、それゆえコミュニティを作れないというケースもあるでしょう。

結果として、自分の都合の良いスペースにしようとするひとが現れ、一部のそんな人のために、健全な利用者が減っていくことになります。


## まとめ


安易に「安価な(無料の)コワーキングスペースを作ろうとすること」に、とてももやもやするというのは、すでに述べました。 その潤沢な予算はコワーキングという文化を広めるために使ってもらいたいというのが、コワーキング業界の端くれとしての正直な感想です。

無料で設立し、人を集められず、周囲の民営のコワーキングスペースの経営を圧迫し、どこかで予算が潰えて、消えていく。 心ある関係者の方々、ぜひともそうならないようにしていただきたいです。

さてさて。 それでも「そもそも人がいないんだから」という運営者の方もいるでしょうし「どうやってコミュニティを作ればよいの」という運営者の方もいるでしょう。

そのあたりについては、また別の記事にしたいと思いますし、コワーキングスペースの運営者の方、これから始めようと思っている方、Co-Edoにいらしてください。がっつりとお話しましょう!
コワーキングスペースについて 『今』いちばん熱く語る男がお待ちしております(笑)

コワーキングスペースについてのコンテンツを、まとめて書籍(冊子)化しようかなと思います。 予定しているタイトルはこの記事と同一で『無料のコワーキングスペースにはなぜ人が集まらないのか(仮)』です。
なお、地方自治体から委託を受けたコンサルのかたは、そちらを購入のうえCo-Edoにいらしていただくことになります。 (価格は未定ですが、地方自治体と業務をする機会のおおい友人からアドバイスにしたがい、おそらく安くはありません)


## コワーキングスペース運営に関わる方へお勧めの書籍


最後に2015年に出会ったふたつの書籍を紹介します。

ひとつは上記でも紹介しましたクルミドコーヒーの影山知明さんの『ゆっくり、いそげ-~カフェからはじめる人を手段化しない経済~-』です。

もともとこの書籍については(仙台市のコワーキングスペース)ノラヤのオーナーのブログ記事(コワーキングスペースは受贈者的な人格を引き出す場だ―「ゆっくり、いそげ 〜カフェから始める人を手段化しない経済〜」影山知明)で知りました。 喫茶店とコワーキングスペースの違いはありますが、書籍に書かれていることのほとんどの内容が、コワーキングスペース運営の助けになると思います。

もうひとつは岡 檀さんの『生き心地の良い町-この自殺率の低さには理由-わけ-がある』です。

全国でも極めて自殺率の低い町(徳島県南部の海部町(かいふちょう)(現海陽町))を取材した書籍ですが、ここで書かれていることは、コミュニティというものに関わるすべてのかたが参考になることばかりです。 自殺が少ないことの理由を、自殺とは切り離した現地調査を行い探っていったそうで、結果的に5つの要因を見出しています。5つの因子はどれも納得のいくものばかりで、コミュニティ運営において指針になることは間違いありません。
どの章もすべておすすめですが、最後の章は必読で、では、歴史的な素地のある海部町とは違うコミュニティのわたしたちには何ができるのかというのを、著者の考えとして著しています。

こちらは、現在Clipニホンバシで常駐コンサルタントとして運営メンバーに名を連ねる広瀬眞之介さんにご紹介いただきました。

どちらの書籍ともコミュニティに関わるかたには必読です。 コワーキングスペースのスタッフをやられている方は、ぜひ年末年始にでも読んでみてください。

明日はNPO法人コムラボ小手森泰介さんです!
それでは!
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