この記事はコワーキングスペース運営者限定アドベントカレンダーの4日目の記事となります。
昨日のコワーキングスペース天満の上田達也(うえだうえお)さんよりバトンを受けました。(昨日の記事:コワーキングスペースと勉強会とわたし)
ちなみに明日はコワーキングスペース秘密基地の代表で、12月14日(金)と15日(土)の2日間、北九州国際会議場で行われる Coworking Conference Japan 2018 の中心メンバーでもある岡秀樹さんです。
これまで当アドベントカレンダーでは、次のような記事を書いてきました。
- 第4世代型をはじめとするコワーキングスペース業界の状況(2017年)
- 「1日店長」イベント(2016年)
- コワーキングスペース利用が初めての方向けの話(2015年)
- 無料のコワーキングスペース(2015年)
- コワーキングスペースの世代論(2014年)
- コワーキングスペースの物件選び(2013年)
- コワーキングスペースでの飲み会(2012年)
このほかにも「コワーキングスペース運営者が意識すると良いかもしれないCW理論について」という記事も書いていて、当記事でも引用していますので、(公開してから多少時間は経ちましたが、いまでも参考になることも多いはずですし)未読の方はぜひあわせてご覧くださいませ。
「雑談OK」というコワーキングの文化
ことしは『「雑談OK」から考えるコワーキング文化の変遷』と題し、「雑談OK」というコワーキングの文化を中心に記事を書いていきたいと思います。「コワーキング」と「雑談」というのはきってもきれない関係にあります。もともとコワーキングはフリーランスのように自宅等で働いているひとたちが、集まって仕事をしてみたら楽しいだろうという試みから始まったということもあり、「一緒に働く」なかで雑談が始まるというのは自然のことでした。その後コワーキングスペースが生まれていく過程で、それが雑談可能な場所であるというのも、当時は自然なことでしょう。
しかしながら昨今ではコワーキングスペースに求められるものとして「静かな、集中して作業ができる環境」という意見も増えてきて、それゆえ、「雑談NG」な場所にするという意思決定をする運営者もいらっしゃいます。
どちらも同じコワーキングスペースであるはずなのに、どうしてこのような違いとなるのか、ということも含め、みなさんが自分にあったコワーキングスペースを探すうえでの一助となれば幸いです。
「雑談OK」が生まれた経緯
じつはコワーキングスペースの機能として「雑談」について公式に触れたのは、Co-Edoが最初[要出典]です。(言い切ったわりにそんなエビデンスはどこにもありません 笑)
コワーキングスペース茅場町 Co-Edo®(以下、Co-Edo)は2012年12月に仮オープンしていますが、コワーキングの黎明期というともう1年以上早く、そのひとつである 下北沢 オープンソース Cafe などから影響を受けている点はたくさんあります。
当時は多くのスペースが手作りの看板を出していましたが、Co-Edoもビル5Fに位置することもあり、ビルの入り口に看板を出そうと考えました。
そのときもオープンソース Cafeの看板(写真左・Facebookページ2013年元日の投稿より)を見て、なるほどこれは要点がまとまっているということで参考にさせてもらっています。(写真右)
コワーキングスペースというものの世間的な認知がないなかで、限られたスペースで、どのように表現しようと考えたときに、CW理論でいうところのW要素(ワークスペースとしての利便性の要素)である「電源」「Wifi」や「ドリンク持込OK」のような表記はすぐにきまったのですが、C要素(コミュニティ要素)についてはなかなか頭を悩ましたわけです。
オープンソース Cafeの場合は、エンジニア界隈でアンテナ感度の高い人には認知されていて、あらためて「コワーキングスペースとはなにか」を必要以上にあらわすことはないでしょうが、Co-Edoの場合はそうはいかないだろうと。
また、「図書館のように静かにする場所ではなく、おしゃべり可能な場所である」という点については、とくに伝えたいという想いがありました。
カフェであれば「話をしても良い」というのは自明ですが、仕事や作業をするためにひとりで使っている場合に話をすることはなく、なかなかこの「仕事をする場所でありながら、話をしてもよい」というのはイメージを伝えづらいのです。
たとえば「ミーティング利用可」というのは使い方の提示としてはふさわしいかもしれません。
しかしそれではコワーキングの自由な雰囲気はなかなか伝わりづらく、どちらかというと(従来から存在する)貸し会議室のような場所をイメージされてしまうと思いました。
「イベント利用可」という表記は、Co-Edoが勉強会やイベントを開催しやすい場所としてオープンしたことからも間違ってはいません。
ですが、それは主催者に対して伝えたい内容であり、ひろくコワーキング利用者に対し伝えたい内容ではありませんでした。
「おしゃべり可」という表記も間違ってはいませんが、カフェのような(仕事とは関係のない)場所を想像されてしまうと思いました。また当時コワーキングスペースについて行ったことがないかたが「(見知らぬ人とも)おしゃべりしなきゃいけない場所」のような勘違いをしていたこともこの表現を避けた理由です。
「パーティするように仕事しよう!」というフレーズもあります。コワーキングという文化が広まるうえでとても秀逸なキャッチコピーだったと思っていますが、それでもCo-Edoが看板に記載するのに適切かというとそうではありません。
また「なんでもできる場所」というような利用シーンをまったく想像できない表現も、当時のコワーキングの状況では適さないのではないかと思いました。
そんななかで浮かんだ言葉が「雑談」でした。
「そうだ『雑談』という言葉を看板のなかに入れてしまおう!」と思いつき、それも「雑談可能」のような許可されたニュアンスではなく、「もともとそういう場所である」というイメージを伝えたかった表現として「雑談OK」という言葉にしたところ、とてもしっくりきたのです。
この選択が間違っていなかったであろうことは、その後多くのスペースが、この「雑談」という表現をフライヤーやWebサイト内で使っていることからもわかりますし、Co-Edoがコワーキングスペースという文化に対しささやかながら貢献できたことのひとつだと思っています。
(いちおう念の為書きますと、雑談という表現がそれまで一切使われていなかったという話ではもちろんありません。看板のようなスペースの限られた場所で、コワーキングを表すもののひとつとして採用し、この言葉を中心にコワーキングというものを伝えようと公式に試みたのはCo-Edo以前にはあまりなかったのではないかと思っています)
Co-Edoは茅場町駅構内の地図に掲載されていますが、このときにも(看板以上に限られたスペースでしたが)「雑談OK」については外しませんでした。
コワーキングスペースでの「雑談」が当たり前ではなくなってきた!?
それでもコワーキングスペースというものの認知度が広がり、利用者の多様化に伴い、この「雑談」というのがコワーキングスペースとして当たり前とは言えなくなってきます。ブース席や個室のような作業スペースを求める利用者と同様、話し声のしない場所を求める利用者や、話し声や雑音を「嫌がる」利用者も増えますし、それに対応したスペースというのも増えてきます。
印象的なものがふたつあります。
ひとつはパセラのコワークで、もうひとつは福岡のヨカラボ天神です。
前者はまだパセラのコワーク開設からさほど経ってないころ、わたしの友人でもある外国人の利用者がFacebookで「コワーキングスペースなのに喋ってはいけないと言われた」と投稿したことです。(投稿内では場所の記載はありませんでしたが)
当時はまだ話をして良いエリアがなく、フリースペースでは話をしてはいけなかったため、スタッフから注意を受けたようです。パセラのコワークは第3世代型どまんなかのコワーキングスペースでしたし、なるほど今後はこういうスペースが増えていくだろうと思ったものです。
後者はつい最近の話。ヨカラボ天神の支配人・村橋さん自ら投稿した記事(自習室エリアのパソコン利用禁止ルールに関して)です。
詳しくは読んでいただくとして、端的にいうと「自習室エリアの利用ルールを変更しパソコンの利用を禁止した」という内容。(その意思決定の過程も分かりますので、未読の運営者の方はぜひともじっくり読んでみてほしいと思います)
こちらは雑談どころか、パソコンの打鍵音についてのお話です。
(両スペースのような)コワーキングスペースであることに異論のない場所でもそういう状況のなか、急増している、単なるレンタルオフィスが共用部分をつくってコワーキングスペースと謳っているようなところでは、利用者同士の交流はおろか、図書館のように静かに使うことが推奨されているスペースも出てきているのではないかと思います。
どうしてこのような状況になってくるかというと、世代論とCW理論の記事に書いていますので、そちらを読んでいただくとして、コワーキングスペースの作業スペースの機能に注力すれば、(利用者層の拡大に比例して)静かな環境を提供するスペースとなっていくのはある意味当然かもしれません。
Co-Edoも変更を検討はしたが…
Co-Edoは(会員専用のスペースも含め)すべてのスペースで雑談も電話の使用も禁止していません。とはいえ最近、図書館のような場所を想像していらっしゃった方もいましたし、徐々に静かな環境を求める声も増えてきていると思っています。
またCo-Edoはイベント利用も多く、コワーキング利用と少人数のイベント・グループ利用が共存することは毎週のように行われていますし、昨今の流れは他人事ではありません。
土日のようにイベントとコワーキングが共存しやすい日は、会員用エリアを一般のドロップインの利用者に開放していることも多く、その意味では、以前と違って「私語禁止のエリアをつくる」という選択肢もないわけではありません。「電話・Skype禁止」ということにすれば喜ぶ利用者がいることも分かっています。
これまでも何度かそのような変更を検討したことはあるのですが、それでも、引き続き、現状の体制を続けようというのが現時点でのわたしの考えです。
それどころか、最近は、黙々と作業するひとしかいない時間帯もあったりして、たまたまそんなときにいらした方には、雑談しづらい場所として認知されていないかというのを気にしているくらいです。(もっと雑談がBGMになるくらいになればいいのにと常々思っています)
コワーキングスペースの利用者はどのように変化しているのか
ここ数年でコワーキングスペースは急増し、都心では利用するコワーキングスペースの選択肢が広がっている状況です。その一方で利用者も層が広がり、狭義のコワーキングをするための利用ではなく、作業スペースとしての利便性を求めた利用をする方が増えている状況でもあります。しかし、わたしのような第1世代型のコワーキングスペースを体験している者としては、居合わせたひととちょっとした会話がきっかけで生まれる、偶然が生みだす価値というのを大切にしていて、それは実際に生まれるかどうか以上に、「そのような機会(可能性)があるかないか」ということがとても重要だと思っているのです。
実際、たまにコワーキングスペースにいくくらいであれば、そんな体験に恵まれるかどうかはわかりません。ですが、世の中のアーリーアダプターと呼ばれるひとたちは、そういう場所を求めているのだと思っています。
黎明期に始まった第1世代中心のコワーキングスペースには、世の中のイノベーターに認知されアーリーアダプターを中心に当初使われたのだと思います。
その後、第2世代のコワーキングスペースは、アーリーアダプターに認知され、アーリーアダプターやアーリーマジョリティな人達を中心に使われているのだと思います。
そして、第3世代のような(お金のかかった)大きなサイズのコワーキングスペースは、アーリーマジョリティからレイトマジョリティのようなパイの広いところをターゲットにすることとなります。
その流れと歩調を合わせ、雑談可能な作業スペースのようなものから、ひとり集中して作業ができるスペースへのニーズが高まっていくのだと、Co-Edoの開設当初から考えていました。
世の中の大半は、(新しいスペースがほしいのではなく)図書館のようなイメージしやすいスペースがほしいのかもしれません。
(JR東日本がつい先日よりSTATION WORKという駅ナカのシェアオフィス・ブースをはじめ話題になっていますが、15年以上前にコクヨが東京駅や新宿駅等の主要駅の敷地内でDESK@(デスカット)という時間単位のシェアオフィスというテーマの店舗を展開しましたが、新しすぎて浸透することはありませんでした。コワーキングスペースが普及した今のタイミングでどうなるかは注目しています)
誤解していただきたくないのは、コワーキングスペースがレイトマジョリティを無視したほうが良いといっているわけではないし、雑談可能なスペースのほうがそうでないスペースよりも優れているといっているわけでもありません。
用途が多様化しているなかで、リソースの限られているスペースは、どのような利用者にあったスペースづくりをしていくかという話です。
第3世代型のスペースや、第4世代型のスペースに対し、資金力の劣るCo-Edoのようなスペースは、より集中してリソースを投下しないとなりません。
今後はどうなっていくのか
今日、世の中に不寛容があふれすぎています。そして今後、寛容的な社会への変化が求められていると感じます。従来、社会はなるべく組織に従順なひとを求めてきましたが、徐々に、個人を尊重し、多様な価値観を認める人や経営者が増えてきています。
日本は身内や同じ共同体のメンバーには寛容ですが、他人にはいきなり不寛容になります。会社で周辺の席の人が雑談していて気にならない人も、コワーキングスペースのような場所では気になるということがあるのではないかと思います。
コワーキングスペースとして、雑談をNGにするか、許容するか、はたまた歓迎するか。不寛容な利用者が増えていく環境を作るのか、寛容な利用者が増えていく環境を作るのか。
Co-Edoは(個人的に寛容な社会になってほしいという想いをおいておくとしても)、窮屈なスペースにだけはしないようにしたいと思っています。
Co-Edoには「なるべく禁止事項を作らない」という運営ポリシーがあります。
飲食を制限していませんし、電話も制限していません。(来てほしいとは思っていませんが)マルチをやっている人だからといって利用自体を禁止しているわけでもありません。周囲の迷惑を顧みず保険の営業をしまくる利用者が仮に来たとしても、ルールとして禁止するのではなく、彼らにとっては居心地が悪い空間にすることで、自然と足が遠のくように対処しています。(ビオトープガーデンのように、たとえば、小鳥にとっては居心地がよく、鳩やカラスにとっては居心地の悪い、そんなスペースにしていくだけです)
究極的には(共用スペースということで)「他の人に迷惑をかけない」というルールだけで運用したいと思っています。
禁止事項を作ればつくるほど「書いてないからOKだと思った」という言い訳を生み出すし、「あの行為も禁止にしてほしい」という個人の感情に端を発する要望も増えていきます。スタッフはルールに従って対処すればよいので楽になるでしょうが、かえってそれが「譲りあって利用することを考えない利用者を増やすこと」に繋がることでしょう。
世の中の常識にとらわれずに自分らしく生きているひとたちは、窮屈な環境を好みません。
良いか悪いかは自分で考えますし、自分の行為が間違っていると気づけば正せるのです。
少しでもそういう利用者がいれば、大半のひとはそのような場所の雰囲気を感じとって、うまく順応してくれますし、そうやってスペース全体の雰囲気というのは決まっていくのだと思います。
隣で話をしていることが「気にならないどころか、興味がある」くらいに思っているひとがいるほうが、気になってしまって作業が進まず、つい運営者に文句を言ってしまう利用者がいるより、良いスペースになっていると思います。
それでも、どんな利用者も、集中して作業がしたいときもあるでしょう。
そういうニーズに対して、運営者はどうすればよいのか。
運営者視点で考えると
- 個室を作る
- 雑談禁止のエリア(部屋)を作る
- 電話ブースを作る
というようなことになるでしょう。
いずれもお金はかかりますので、あれもこれもはできませんが、必要に応じて変化させていくしかありません。
多様な価値観を認め合う場所は、魅力的であり続ける
もっと寛容な社会になっていくことは間違いないと思っていますが、いますぐどうこうできる話ではありません。タバコだっていまの状況になるのに、千代田区が全国に先駆けて路上喫煙禁止条例を制定してから15年近く要しています。社会は変化に鈍感なのです。
それでもテレビが先導していたときと比べると、インターネットでニュースや言論が広がる今日は変化のスピードが速くなっています。
働き方改革もあっという間に普通の言葉になりました。
オフィスの外で(それも共用スペースで)仕事をするなんてことは10年前から考えればとても許容されることじゃなかったわけです。となると、今は過渡期として雑談禁止の場所がコワーキングスペースと名乗っていても、今後はそういったスペースですら、雑談を許可する流れに変化していっても不思議ではないでしょう。
マレーシア文化に詳しいライターの古川音さんが思うマレーシアの魅力には「多民族国家であるがゆえ、価値観を押し付けず言いたいことをいい、違うことを認めながらも大きくつながる」という点があるそうです。
同質性を重んじるがゆえ息苦しさを感じる従来の日本とは正反対であり、まさに、いま日本人の価値観が(多様化してきたがゆえ)シフトしている方向と合致している気がします。
マレー系、中国系、インド系といるマレーシア人は、顔も違えば宗教も違う。食べられるものも違うひとたちが共存するための知恵が「みんなちがってみんないい」という多様性を認める文化になっているそうです。
3年前のアドベントカレンダーの記事内で岡 檀さんの『生き心地の良い町-この自殺率の低さには理由-わけ-がある』という書籍を紹介しましたが、そこに登場する徳島県の海部町(かいふちょう・現海陽町)も、江戸時代初期に各地からの移住者が多く集まった「価値観が違うひとたちが築いたコミュニティ」です。
コワーキングがなぜ魅力的なのかのヒントは、こういうところにある気がしてなりません。
とすると、コワーキングスペースも、単なるワークスペースとしての利便性ばかりを追い求めるのではなく、多様な価値観を認め合う場所であったほうが、魅力的であり続けることでしょう。
(いまの流れと逆らうように)徐々に「違うことを認めながらも大きくつながる」コワーキングスペースが増えていってほしいと思いますし、その意味でも「雑談がうまれる環境」というのは大切ではないかというのが個人的な思いです。
アドベントカレンダーを書くにあたり頭に浮かんだ「雑談OK」というフレーズから、そんなことを考えてみました。
明日以降のアドベントカレンダーの記事も楽しみにしています。
冒頭ご案内しました 12月14日(金)と15日(土)の2日間、北九州国際会議場 で行われる Coworking Conference Japan 2018ですが、わたしも登壇いたしますので、ぜひみなさんいらしてください!
両日とも会場にいますので、見かけましたらお気軽にお声がけくださいませ。ブログ記事の感想とかも聞けたら嬉しいです。